新宿区では昭和37年(1962年)に「住居表示に関する法律」が施行され区の西側から順次住居表示を行ってきたが、令和3年(2021年)時点ではおよそ24%が住居表示未実施となっていることが課題となっている。
住居表示の実施されない地番のままでは以下のような問題を引き起こす。
- ウェブサイトやアプリで住所を検索すると目的とは違う建物が表示されることがある
- 住所に規則性がないため誰にとってもわかりにくい
- 建替えや土地の売買などで地番が変わった場合に住居番号の順序が保たれない
- 郵便物や配達物を届ける際、救急車や消防車を呼んだ際に目的の住所を特定しにくい
- 町名の正式な読み方を決められない
新宿区による市谷薬王寺町の現地調査では実際に、表札等で居住者や同居人が確認できなかった、同じ住所を使用する建物が複数あった、法人・事業所の有無が確認できなかったことで、調査に支障があったこともあると言われている。
住居表示未実施区域のひとつ市谷薬王寺町では現在「市谷薬王寺町【親番】番地【枝番】」という形で町名に続けて「地番」で住所を表しているが、1つの番地の中で複数の建物や枝番が存在したり売買や相続等など所有権の変更に応じて地番が変わってしまい、時間の経過とともに問題がより大きくなる可能性があることが懸念されていた。
住居表示を推進するために、新宿区は以前までは道路、河川、水路、鉄道で町域を区切るルールを原則としていたが、平成25年4月にそれぞれの町の歴史的経緯やコミュニティへの影響を考慮し、原則に該当しないものも許容するようルールが改められた。四谷地域でこの新しいルールが適用されてことを受けて、市谷薬王寺町の住居表示に着手した。
住居表示は主に以下のように進められる。
- 道路に沿って町を20の街区に分ける
- 南東の角を1番地として20番までの街区符号を振る
- 街区の周囲を一定間隔に区切り南東角を起点に時計回りに住居番号(基礎番号)を振る
- 隣り合う街区と連続し、外苑東通りから向かって東側を南から北に向かって数字を大きくし、西側を北から南に向かって数字を大きくする
- 住居番号は建物の主な出入口がどこに接しているかで決める
- 標識(街区表示板、町名板・住居番号表示板、住居表示街区案内板)を設置する
住居表示実施後は現在の市谷薬王寺町の区域と変更はなく、漢字の表記はそのまま「市谷薬王寺町」、ふりがなは「いちがややくおうじまち」となる。住所の表し方もこれまでとは変わり「市谷薬王寺町**番地」だったものが「市谷薬王寺町**番**号」へ変更される。令和5年(2023年)11月6日の実施予定で進められている。
新宿区の東部は西部に比べると、画一的ではないユニークな町名が現在も残されている。漢字をどのように読べばいいのか、どのような歴史があったのかなど想像をかき立てられ、住んでいなくてもどことなく愛着が湧く。今後、他の地域が住居表示を実施する際も同様にこれまでの町名や区域に配慮したものになることを期待したい。
参考ウェブサイト
市谷薬王寺町地域 住居表示ポータルサイト
https://www.city.shinjuku.lg.jp/chiiki/chiiki01_000001_00018.html
市谷薬王寺町地域の住居表示実施案の公示について
https://www.city.shinjuku.lg.jp/chiiki/chiiki01_000001_00020.html