Twitterで「Eternal Maze」とDisられる新宿駅。その中でもとりわけ利用者にとって難易度が高く理解までに時間を要するのは都営大江戸線の新宿駅と新宿西口駅ではないだろうか。
その理解を難しくしている要因としては主に以下ではないかと推察する。
- 「新宿西口」はJR新宿駅の西口であると推測されるが、前置きがない人はおそらく何の新宿そして西口なのかの対象が名前だけでは判別できない
- 都営大江戸線の新宿駅と新宿西口駅は改札外の地下通路経由でつながっているが乗り換え駅扱いではない
- 新宿西口駅の改札を出て案内通りJR新宿駅(西口)方面へ向かってもまず目につくのが東京メトロ丸ノ内線の新宿駅で一向に「新宿西口」が見えない
同じ新宿駅でも丸ノ内線と大江戸線は乗り換え駅扱いとはなっておらず、丸ノ内線の新宿駅と乗り換え駅扱いとなっている大江戸線の駅は新宿西口駅となる。都営地下鉄のウェブサイトでもその違いを説明するためだけのページが設けられていることから、この複雑さを理解してもらうことへの苦労がうかがい知れる。
新宿西口駅と新宿駅について
https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/subway/stops/shinjyuku.html
なぜこのような歪なルートになったかというと、免許申請時は混雑が問題となっていた新宿駅へ隣接するはずではなかった計画が、1986年の計画変更によって都庁の新宿移転計画に伴う利便性向上のため新宿駅に可能な限り隣接するよう見直されたためである。
その際いくつかの案が検討されたが、乗客の流れ、建設費、費用対効果、技術面などを鑑みた結果、現在のような6の字運転が採用された。都庁前駅からJR新宿駅に隣接する部分は北回りと南回りで分岐することになり、分岐先には新宿西口駅と新宿駅が設置されることになった。
免許申請時のルート案
免許申請時のルートがどのようなものだったかというと、西新宿駅(現在の都庁前駅付近)から都心方面への分岐は北回りと南回りは現在の都庁前駅のように2面4線のホームが並行する形ではなく、北回りのホームが東西に、南回りのホームが南北に配置され逆L字型に交差する形が予定されていた。その先のルートも以下のようにあえて新宿駅前を通らない予定だった。
北回り:
京王プラザホテル横から新宿駅方面へ向かいながらも現在の新宿西口駅の位置を避け、小滝橋通りとJR山手線と中央線の分岐部付近を通過し、職安通りの下を通って現在の東新宿駅へ到達
南回り:
中野坂上駅から青梅街道の下を丸ノ内線と並行し、京王プラザホテルと新宿三井ビルの横に至り、都営新宿線と交差しながらもそのまま南下して現在の都営大江戸線新宿駅よりは西側を通り、南新宿駅付近の地下を通りJR代々木駅とは並列ではなく十字に交差する形で到達
日本鉄道技術協会「JREA」1976年11月号「東京都営地下鉄12号線の建設計画」の中では、このルートがどのようなものであったかが掲載されている。
https://www.jrea.or.jp/jrea/data/1976/JREA_1976-11.pdf
1986年の計画変更ルート案
1986年の計画変更は以下3つのルートが検討されていた。
Aルート:
現在の都営大江戸線のルート、西新宿駅(現在の都庁前駅)から北回りと南回りで分岐
Bルート:
南回りはAルート、そのまま都心部を現在のルートとほぼ同じルートで一巡してから東新宿駅に至った後、現在の新宿西口駅の位置は経由せず西側から回り込む形で西新宿駅(現在の都庁前駅)で南回りへ接続する案
Cルート:
Aルートに加えて、現在の新宿駅と新宿西口駅の間へ連絡線を設けて環状運転を可能とする案
マイナビ出版「完全保存版 都営地下鉄のすべて」の中では、このルートがどのようなものであったかが掲載されている。
https://book.mynavi.jp/ec/products/detail/id=65954
都営大江戸線の新宿駅はただでさえ深い都営新宿線の新宿駅(地表から26.5m)と交差させながらもなんとかしてJR新宿駅に近づけたためか、ホームが地下7階(地表から36.6m)という深さに位置しており、JR線と乗り換えようものなら軽く登山気分である。
都営新宿駅はJR新宿駅寄りに都営新宿線(京王新線)への改札があり、その脇にひっそりと大江戸線の改札がある。前者は途中から都営大江戸線にもつながっているが、後者は都営新宿線・京王新線には直接つながっていない。前者の方が改札の数も多く目につきやすいため、都営大江戸線を目指す人も都営新宿線(京王新線)の改札を利用している人は少なくないのではないだろうか。
都営新宿線の新宿駅は京王新線の新宿駅も兼ねており、都営新宿線(京王新線)と都営大江戸線の改札内乗り換え通路となる地下4階は通勤時間帯ともなると人の流れが平面交差してとても混雑している。床面に動線を整理するためのラインが引かれたり、それを区切るためのポールのようなものも設置されているが焼け石に水である。
一方、新宿西口駅はJR新宿駅からは水平移動では離れている印象を受けるが、ホームの深さは地下4階(地表から21.9m)に抑えられておりエスカレーターや階段の幅にもゆとりを感じるため、都営新宿駅ほどの混乱はないように見える。
一長一短あることは承知の上だが、もし免許申請時のルートで開通していれば現在のような新宿駅と新宿西口駅の混乱、都営大江戸線新宿駅の通勤時の混雑およびホームまでの上下移動を軽減させることができたかもしれない、と考えると個人的には計画変更されたことが悔やまれる。
しかしその場合、JR新宿駅から遠くて不便だという別の意見、代々木駅までの間の住宅密集地の地下へどうやって地下鉄を通すのかという課題が出たであろうことは想像に難くない。
参考情報
都営交通ウェブサイト 新宿西口駅と新宿駅について
https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/subway/stops/shinjyuku.html
東京都 オープンデータカタログサイト「都営地下鉄駅基本情報」
https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t000018d0000000053
日本鉄道技術協会「JREA」1976年11月号「東京都営地下鉄12号線の建設計画」
https://www.jrea.or.jp/jrea/data/1976/JREA_1976-11.pdf
マイナビ出版「完全保存版 都営地下鉄のすべて」
https://book.mynavi.jp/ec/products/detail/id=65954
成山堂書店「大江戸線建設物語 地下鉄のつくり方ー計画から開業までー」
https://www.seizando.co.jp/book/4413/
平凡社「地下鉄の駅はものすごい」
https://www.heibonsha.co.jp/book/b506996.html
もはやダンジョン? 地方出身者を悩ます迷宮駅「新宿」が誕生した歴史背景とは
https://bunshun.jp/articles/-/49407?page=4
開業1日遅れで1億円の損失!?幻になりかけた大江戸線が開通できた理由
https://diamond.jp/articles/-/239677?page=2